地球への警告:「ボッター」、新コレクションのテーマに気候危機
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「ニナ リッチ(NINA RICCI)」のアーティスティックデザイナーとして知られ、ブランド「ボッター(BOTTER)」を創設したリジー・ヘレブラー(Lisi Herrebrugh)とルシェミー・ボッター(Rushemy Botter)といえば、業界が“新興デザイナー”と呼ぶ人物だ。メディアの注目を集める二人は、その話題性を活かしてファッション業界に気候変動問題を突きつける。彼らの2022年春夏コレクション「Global Warning(地球への警告)」は、例外なくそのコミットメントを主張している。
同コレクションは、‘22年春夏パリ・ファッションウィーク(Paris Fashion Week)の公式プログラムとして9月28 日にパリで発表され、同時にフランスオートクチュール・プレタポルテ連合会 (Fédération de la Haute Couture et de la Mode)のウェブサイトでも配信された。彼らのメッセージは明確だ。それは「地球温暖化(Global warming)は加速し、我々にはもう時間がない」ということだ。
海洋保全
本コレクションでは海や海洋生物の保護に努めるNGO「パーレー・フォー・ジ・オーシャンズ(Parley for the Oceans)」とのパートナーシップにより、海から回収されたプラスチック廃棄物を60%使用した再生材を素材に使っている。(WWD)
オランダとカリブ海諸島にルーツを持つヘレブラーとボッターは、2018年に開催された「イエール国際モードフェスティバル(the Hyères festival)」(フランスで開催される若手デザイナーのコンテスト)でグランプリを受賞し、以来、海洋環境問題についてのメッセージを発信しつづけてきた。しかし彼らにとって海洋環境は単なるデザインのインスピレーションではなく、守らなければならない信念なのだ。
「服を作るだけではもはや不十分」。ルシェミー・ボッターは今年9月に『ヴォーグ(Vogue)』の取材にそう答えた。そのため、「Global warning」 コレクションのショーでは環境問題に関するプレゼンテーションを従来よりも2倍に増やすとともに、暗く恐怖さえ覚えるような動画を制作して海の環境を害したり破壊したりする危険性や気候変動の影響について人々に訴えかける強いメッセージを表現した。
大型船の警笛、波や海風、力強いリズム。動画の中のコンクリートのステージで再現された海の音たちが、見る者を海辺へと誘う。しかしそこにあるのは、「シャネル(CHANEL)」の2019年春夏シーズンコレクションのような海辺の楽園とはほど遠い。青ざめた画面に、危機にさらされた海の露骨な現実が映し出される。ダイビングマスクと廃棄傘を再利用した帽子 (仏傘ブランド「ピガニオル(PIGANIOL)」製) をつけたモデル達が早歩きして、カメラの画面をタップする。その姿はまるで私達の前に立ちはばかり、私達の中の環境保全活動家の魂を呼び覚ましにやってきたかのようだ。
シルエットはオーバーサイズのシャツ、テイラード、フィッシュネット・トップスなど、「ボッター」のスタイルを忠実に踏襲。色使いは青とベージュを中心に、アクセントカラーには黄色と橙赤色を使用。また、コンパクトな素材に加え、ブイやダイビングフードを思わせるバッグといったダイビングを意識したアイテムのほか、アクセサリーには日本の「Dowluck(道楽)」とデザインした釣り針を使ったネックレスが登場した。
気候問題への危機感を訴えるため、リジー・ヘレブラーとルシェミー・ボッターは今回のショーを通じてファッション業界に問題提起を行った 。過去には、「マリーン セル(MARINE SERRE)」の「ブラック・タイド・コレクション」(2019年)やフランチェスコ・リッソ(Francesco Risso)がデザインを手がけた「マルニ(MARNI)」の2020年春夏コレクション(2019年発表)でも環境問題をテーマに業界を追及するプレゼンテーションが行われている。
世界気象機関(WMO)が今年8月に発行した報告書によると、人類の活動を中心とした気候変動の結果、気象や気候による災害や水害の発生件数が過去50年間の間に5倍に増加しているという。こうした気候変動の環境への影響を受け、ファッション業界ではその影響を軽減させるためさまざまな取り組みが推進されてきた。今年8月にはフランスの環境連帯移行省が気候問題とその回復に関する法律を発表しており、ファッション業界にも影響すると見られている。
「ボッター」は2017年創業の高級プレタポルテコレクションを扱うブランド。商品は公式オンラインショップのほか、世界の百貨店・セレクトショップなどで販売されている。
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本記事の原文は本誌フランス版(FashionUnited.FR)に掲載されたものです。