‘24年秋冬パリFW総まとめ Part 1〜ノスタルジックと（おぼつかない）デビュー作

プログラム満載で開幕した2024年秋冬パリファッションウィーク（パリFW）の最終日。フィナーレには恒例の「ルイ・ヴィトン（LOUIS VUITTON）」が登場し、ニコラ･ジェスキエール（Nicolas Ghesquière）がちょうど10年前に同メゾンデビュー作を発表したパリ・ルーヴル美術館の中庭クール･カレを舞台にウィメンズ新作ファッションショーを開催した。

昨年11月、「ルイ・ヴィトン」との契約を5年更新したジェスキエール＝ウィメンズ・アーティスティッィクディレクター。通算10年連続でブランドのデザイントップ就任は、昨今のファッション界では異例である。そんなジェスキエール氏の最新作を見に集まった4000人の観客を、同氏はノスタルジックな雰囲気を表現したコレクションと、アーティスト フィリップ･パレーノ手がける未来の宇宙船を思わせる演出で魅了した。デザインは、SF好きの彼のテイストや、「バレンシアガ（BALENCIAGA）」時代の面影を映しつつ、高級ブランドとして名を馳せるきっかけとなったモノグラムのトランクにインスパイアされたシルクのプリントドレスなど、メゾンへのオマージュを込めたアイテムも披露された。

パリ中でバレまくりのサプライズ

ジェスキエール氏がステージに姿を表したが、今季のパリはそこで終わりではなかった。かなり前からソーシャルメディアでささやかれていた、アンソニー・ヴァカレロ（Anthony Vaccarello）による「サンローラン（SAINT LAURENT）」’24年秋冬メンズ・コレクションのショー開催の噂が同夜、“サプライズ”で開催されたのだ。

会場は、親会社ケリング（Kering）のフランソワ・アンリ・ピノー（Francois-Henri Pinault）会長兼CEOの個人コレクションを展示する現代美術館「ブルス・ド・コメルス（BOURSE DE COMMERCE）」。観客100人ほどという、「ルイ・ヴィトン」に比べればだいぶ小ぶりなショーでは、メゾンのアーカイブに強く影響を受けたルックスに加え、’80年代風パワーショルダースーツと黒のサングラスをまとい、髪をオールバックにまとめた創業者イヴ・サンローラン（Yves Saint Laurent）氏さながらのモデルたちまで現れた。

かつて、「サンローラン」はウィメンズとメンズの間で一部共通したモチーフやシルエットを取り入れていた。しかし今回発表されたメンズ・コレクションで強く強調されたテイラーリングは、先日パリFWでお披露目されたウィメンズ・コレクションとは大きく逸脱しているように感じられた。そもそも、’24年秋冬ウィメンズ新作ではテイラーリングはほぼ出番がなく、主軸はシースルーのドレスやセットアップとストッキングであった。「サンローラン」の歴史と、1966年にメゾンで初めて発表されたシースルールックに根差した選択であったとされているが、最近のヴァカレロ氏の作品としては珍しく批判を浴びることとなった。

ヴァカレロ氏が1960年代に最新作の起点を見出した一方で、「シャネル（CHANEL）」のヴィルジニー・ヴィアール（Virginie Viard）は’24年秋冬ウィメンズ新作でメゾンの創業期に回帰した。のちにフランスを代表するメゾンの創業者となるガブリエル・シャネル（Gabrielle Chanel）が、“パリジャンのリヴィエラ”と呼ばれる海辺の町、ドーヴィルに初めてブティックを構えて帽子を売り始めたのは、1912年のこと。「シャネル」のすべての始まりともいえるその地を振り返り、ヴィアールが今季のショーを渚の遊歩道を思わせるランウェイと大きな帽子が目を惹くルックスでスタートさせたのは自然な流れだ。ショーではそのあとも、水兵服をプルオーバーやカーディガン・セット、ミドル丈のコートに解釈したルックスや、やわらかなシルエットのティー・ドレス、ジーンズ、シグネチャーのツイードももれなくお目見えした。

（Part 2に続く）