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3Dプリントはファッション産業をどう変えるか:「マテリアライズ」インタビュー

By Weixin Zha

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ファッション |INTERVIEW

ハイファッションと靴のソールの共通点。それはいずれもファッション業界の中で3Dプリントの登場により飛躍的な進化を遂げた分野であるという点だ。

当初は脚光を浴びた3Dプリントではあるが、昨今では少しずつ話題が薄れつつある。3Dプリントによって自宅でTシャツやブラウスが作れるようになると言われるものの、実現はまだ先の話だ。では、ファッション業界における3Dプリントの将来展望はどこにあるのか。

本誌は、ベルギーに本社を置き3Dプリント事業を手がけるマテリアライズ(MATERIALIZE)顧問のヴァレリー・ヴリアモント氏に、3Dプリント技術の現状および中期的な見通しについて取材した。1990年創業の同社はデザイナーのジュリア・コーナー(JULIA KOERNER)とコラボレーションし、映画「ブラックパンサー(原題:Black Panther)」でワカンダ国の女王役の女優が着用した衣装のマントルと王冠を制作した。緻密なデザインが際立つこの衣装は今年のアカデミー賞で衣装デサイン賞を獲得している。

ファッションでも3Dプリントが注目されるが、技術的には複雑でもある。ユーザーの間ではどんな誤解があるか?

ラグジュアリーブランドのデザイナーの間では、3Dプリント技術の応用には高いレベルの知識が必要との誤解がある。3Dプリントを使うことで、素材の性質が変わる恐れがあるとの懸念からだ。例えばデータ上の想定では硬い素材でも、実際には柔らかく仕上がることがあり得る。

一方、マス向けブランドでは、3D造形した商品の見た目や大量生産する場合の品質の確保、コストに対していまだ不安が残っているように感じる。

マス向けブランドが3Dプリントを活用するメリットは?

当社は商業用としてウェアラブル端末に注力しており、製造工程がデジタル化できる3Dプリントは今後アイウェアなどのウェアラブル商品を展開するブランドにメリットが高いと考えている。製造時のデータがデジタル保存されるのでデザインの微細な変更にも随時スピーディーな対応が可能な上、商品を必要に応じて必要な時に製造できることから、従来の製造方法のように大量の在庫を持たなくて済むという利点もある。

写真: Cabrio Collection by Hoet

アイウェアの場合、1個あたりの製造期間は何日間か?

商業用なら1個あたり5〜10日間で製造可能。実際の製造期間は生産する個数により決まるため一概には言えないが、取引実績のあるブランドではアイウェアの製造方法として3Dプリントのシェアが拡大しつつある。

3Dプリントで今後注目すべき技術は?

アイウェアでは精巧な造形が可能 なナイロン粉末を原料とした粉末焼結積層造形(SLS)方式に注目している。耐久性の高い造形が可能なので、長期間の使用が想定される商業用品の造形などでよく導入されている。さらに粉末を焼き固めて造形するSLS方式はデザインの自由度が高く、仕上がりも良い。当社が造形するアイウェアは二、三年経っても変形せず、落としても割れない仕様となっている。

過去にはイリス・ヴァン・ヘルペン(IRIS VAN HERPEN)などのデザイナーとコラボレーションしているが、これまでの実績で最も画期的だった事例は何か?

事例はいくつかあるが、最も新しいところではジュリア・コーナーとのプロジェクトがある。大変興味深いプロジェクトだった。技術を知り尽くしている彼女は3D構造を巧みに設計してしなやかさを強調した素材を作り出すことに成功した。

3Dプリントがハイファッションにもたらす利点は?

3Dプリントでは従来の技術で作れなかった造形が作れるようになる。有機的なデザインや彫刻的・静的造形を専門とするアーティストの作品でも三次元で表現できる。造形上の自由度が高いので、作り手の発想次第でいろいろなものが作れるのが魅力だと思う。

アディダス(ADIDAS)やフィッツ(PHITS)などともコラボレーションをしていると思うが、ソール製造における3Dプリントのメリットは?

データを活用しソールの強度の足りない場所や構造の改善が必要な位置が目で確認できるため、製品の機能性の改善が期待できる。また、専用のソフトウェアを使い、利用者の装着時の足の動きをスキャンした画像を元にオーダーメイドのソールを製造する技術もある。現在でもほとんどのインソールが足型から作られているので、スキャン画像から直接ソールを作れる3Dプリントは画期的だと言える。

写真: 3Dプリントで製造したインソール

貴社にとっての今後の展開は?

新しい造形素材開発に重点を置いており、昨今ドイツのBASFと戦略的提携を締結した。最終商品に影響を与える造形素材は当社にとっても重要な課題で、より審美性に富み高級感のある素材開発に注力していく。エンドユーザーである顧客は多様性を求めており、トレンドに敏感。当社もそれに応えるべく対応していく。

ファッション業界において3Dプリントは今後どう進展していくのか?

ファッションブランドの間で3Dプリントのメリットに対する理解が深まっており、今後ますます多くの分野で3Dプリントが導入されていくと思う。新しい技術も開発が進み、3Dプリントが幅広い産業に普及するのは時間の問題だと思う。

現状で3Dプリントの成長性を実感するのはどんな場面か?

3Dプリント業界ではダイナミックな動きが出始めている。3Dプリント素材・機器メーカー数は依然として少ないものの、ここ2年の間に新規参入事業者が急増している。市場は過去二、三十年の発展度合いとは比べものにならないほど早い速度で成長していくと思われる。すでに3Dプリンターや素材メーカーは市場のポテンシャルに気づき始めており、新素材開発や開発への投資に意欲的である。こうした動きの中でBASFのような化学メーカーが3Dプリント素材の開発に関心を示したのは決して偶然ではない 。

3Dプリントはファッション業界に革命を起こすか?

「革命」といえば大げさだが、3Dプリントは多くのエンドユーザーの要望に応える機動的な製造オペレーションの実現を可能にする。エンドユーザーは新しいものをより早く手に入れたいと考え、さらによりサステナブルな商品を求めている。ブランドやアパレル関連企業はこうした顧客のニーズに対応すべく、より柔軟で持続可能な製造技術を必要としている。こうした観点から、3Dプリントのファッション業界における役割はますます大きくなっていくと予想している。

写真: ジュリア・コーナーがデザインした3Dプリントのネックレス

写真: Materialise; ホームページ使用画像: © Matt Kenneda/Marvel Studios 2018 - Costume Design Ruth Carter

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