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新型コロナで“見捨てられた”縫製工場と労働者

By Simone Preuss

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ビジネス|IN DEPTH

縫製工場の労働者ほど不安定で危険を伴う仕事はめったにない。工場が好調で受注数が増えれば納期に追われ、賃金は出来高払い、さらには職場での言葉や身体的な暴力を受けることもある。されど収入は食うに足らないものばかり。一方業績悪化で受注が減れば職を失い、退職金はおろか失業保険もままならない。言い換えれば貧困への道をたどるのだ。

新型コロナウイルスが世界的にまん延する現在の状況は世界の縫製工場の労働者には極めて悪く、特にアジアの低賃金の国々に大きなダメージを与えている。先進国で次々にアパレル小売店舗が一時休業するにつれ需要は落ち込み、事態に敏感に反応したブランド各社や小売業から商品発注のキャンセルや延期が相次ぐ。多くの場合、発注キャンセルになってもすでに製造済みの商品に関して発注者側が支払いを行うことはない。

世界で数千軒の工場が休業、解雇労働者は100万人規模に

ペンシルバニア州立大学国際労働者権利センター(Penn State University's Center for Global Workers' Rights、略称: CGWR)のレポートによると、こうした状況により最も深刻な影響を受けているのは先進国の企業のサプライヤーである途上国の工場だという。途上国では数千軒の縫製工場が部分および全面休業に追い込まれ、何百人という労働者が賃金未払い、もしくは退職金なしで解雇されている。

CGWRがバングラディシュの縫製工場の労働者を対象に行ったオンライン調査(調査期間:2020年3月21日〜25日)では、発注品のキャンセルによる工場や労働者への“壊滅的な影響”が浮き彫りになった。新型コロナの影響で工場休業や十分な経済的余力のない労働者の賃金未払い、税収不足の政府による労働者や産業支援策の不備など、「企業の発注コスト抑制の上に数十年にわたり横行してきたシステムの極大な脆弱性が決定づけられた」と調査レポートは指摘する。

また調査では、コロナ感染拡大が始まって以来バングラディッシュの縫製工場の半数以上で取引先からの仕掛品や完成品のキャンセル依頼を受けている実態が明らかになった。発注キャンセルについては通常契約上支払い義務が生じる。にもかかわらず、多くの企業が「契約書の不可抗力条項(災害などの不可抗力による契約違反について責任を問わないとする取り決め)を盾に支払い義務の不履行を正当化している」という。

バングラディシュの縫製工場における、発注キャンセルにあたり原料費(Figure 3a)や加工費(Figure 3b)の負担を拒まれた経験に対する回答者の割合グラフ。(CGWRオンライン調査結果より)

見捨てられる縫製工場

さらに調査では生地などすでに購入してしまった原料費の負担を拒んだ取引先は全体の72%であったほか、加工費についても負担しなかった企業が91%にもおよんだことが判明した。こうしたキャンセルや費用の不払いにより、製造活動をほぼすべて停止、もしくは工場を閉鎖したと回答した縫製工場は全体の58%であった。

影響は工場の働き手にも波及しており、バングラディッシュでは100万人以上の縫製工場の労働者が解雇または一時解雇されている。一時解雇中の労働者については法的に賃金の部分的な支払いが求められるが、ほとんど(98.1%)の取引先企業はこうした支払いへの協力を拒否しているという。その結果72%の労働者が賃金未払いのまま解雇され、さらに退職金も出なかったケースは80%以上にものぼる。多くのファッションブランドが「製造委託先工場の従業員の離職の際の負担を軽減するため(雇用主である)工場に対し支援を行う」としたポリシーを策定しているにもかかわらず、それは反映されていない模様だ。

調査レポートでは終盤で、バングラディッシュを含むすべての衣料品生産国に対しての助言を発表している。コロナ危機はブランドや小売企業の収益や手元資金に影響していることは間違いないが、ファッション業界のすべてのステークホルダーが平等にそうした負担を資金繰りなどで補てんできる体制にはなっていない。それ故に「ただでさえ薄利な利益で資金調達も容易ではない縫製工場に大きなしわ寄せが行ってしまう。そして貯蓄をする余裕もない低い給料で食糧や医療費を賄っていかなければならない労働者の負担は非常に大きい」とレポートは主張する。

発注品キャンセルによる縫製工場の製造活動への影響グラフ。製造活動をほぼすべて停止(53.4%)もしくは工場を閉鎖した(4.5%)と回答した縫製工場はあわせて全体の58%であった。(CGWRオンライン調査結果より)

発注側への提言

こうした厳しい状況の中、CGWRは融資や政府の救済措置といった手段を最も多く備えている企業に対しその資金をサプライヤー企業にも分配し、さらにサプライヤー企業はそうした収入を使い解雇した労働者に対し法的に支払うべき賃金や退職金などの支払いを行うべきだと提言する。

同時にバングラディッシュをはじめとする衣料品生産国の政府に対しても、すべての資源を自由に行使し、危機に瀕している縫製工場や労働者を支援することを促している。

ファッション企業は今回の危機に学び、これまでの購買業務を見直し今後より社会的で配慮した事業の推進に努めることが求められる。衣料品製造業者が適切な生産計画を立てられるよう発注の安定化を図るだけでなく、労働者の権利の全面的な尊重や生活賃金の保証・各種手当・退職金・安全な労働環境の整備などの費用を捻出できるコストモデルの構築に取り組むべきである。CGWR はその結論で先進国のファッション企業やその従業員の支援に使われているコストは数兆ドルであるが、衣料品生産国の労働者の収入を維持する費用はそのごく一部でしかないことを再認識するよう業界に警告している。

ファッション大手同士が団結

ファッション業界でも動きが見られている。スウェーデン・ファッション大手の「エイチアンドエム(H&M)」は供給元である製造業者の支援を表明。同社は3月31日、「我々のサプライヤーに対するコミットメントとして製造済みおよび仕掛品の引き取りを行う。もちろん対価は合意した条件通りに支払いを行う。こうした取り組みは我々の責任ある購買業務として実施するものであり、バングラディッシュに限らず当社製品の製造国すべてが対象になる」とのコメントを発表している。

ファッション企業の取り組みの持つ効力は「H&M」の発表に対する反応を見れば一目瞭然だ。同社の発表以来、スペインの「インディテックス(Inditex)」をはじめ「マークス・アンド・スペンサー(Marks & Spencer)」、「PVH」、ならびに米国大手小売「ターゲット(Target)」なども発注をキャンセルしない旨表明し始めている。こうした変化が他のアパレル企業・ブランド小売にも広がることを期待したい。

Photos: via AFP
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