「シャネル」差別化戦略でバック価格値上げ
loading...
昨今、「シャネル(CHANEL)」のバッグの値上げと購入個数制限がメディアで報道され、世界全体でインフレが進むなかラグジュアリーファッション業界の今後の成長を疑問視する声が出た。しかし今回の値上げは、その幅からしてコスト高騰への対策ではなく、よりエクスクルーシブなメゾンとして他のラグジュアリーブランドとの差別化を図るためと見られる。
これまでラグジュアリーブランドは、そのエクスクルーシブなイメージを築くため、次の3つのレバーを引いてきた。
一つ目のレバーは時を経るごとに新たな価値を生み出すブランドネームとそれに付随する影響力だ。ラグジュアリーブランドは長い間、真実と神話とが半々に入り混じる独自の世界を作りあげてきた。現代にいたっても、新たなブランドを立ち上げるより古いブランドを復活させるほうが容易であることのほうが多い。
二つ目のレバーは、主に地理的条件に関わるアクセスの問題だ。多くのラグジュアリーブランドは20世紀に創業したものだが、当時は例えば「スキャパレリ・ドレス」を買うにしてもパリに行かなければ手に入らなかった。しかし今では小売店がブランド商品を扱うようになったため、ラグジュアリーメゾンの戦略は店ごとの限定デザインの導入や、最近では客一人あたりの購入数の制限へと移り変わっていった。
そして最後の三つ目のレバーは「価格」だ。高級品はつねにそれを買える客をターゲットとしてきた。そういう中で価格は客にとって品質を意味する。高級ブランド品が世界中の多くの場所で購入できるようになった現在、価格はブランドの優位性を上げる第一の策なのだ。
そこで「シャネル」が登場するわけだが、世界の主な都市に店舗を持ち、知名度やファンも多い「シャネル」にとって、そのブランドネームと価格戦略こそが残された成長戦略なのだ。
ブランドは、創業100年を超える老舗であっても、浮き沈みがある。そもそも今でこそ”It Bag”として脚光を浴びる「シャネル」のバッグも、少し前までは「おばあちゃん」のバッグとのイメージがあった。そのため、バッグの価格を法外に上げることで、こうしたイメージを崩し、価格こそが最も決定的な価値を持つ一部の層にしか理解できない世界のものとしてのポジショニングを狙ったというわけだ。また、そうすることで「シャネル」はさらに大きい「ラグジュアリーファッション」市場からの離脱をも目論んでいる。
こうした作戦は「エルメス(HERMES)」も知り尽くしており、すでにエクスクルーシビティを作るために万策を講じてきた。そして今、「シャネル」も同様の成功を期待し、勝負に出たのである。