安価な服は輸入、高品質素材は輸出 数字が示す日本ファッション産業
近年の日本のアパレル市場は、コロナ以前の9兆円台には届かない状況が近年続いている。 この現象の理由の一つとして、繊維産業における労働力不足が考えられる。繊維産業の平均年収は581万円で、全産業平均を上回っている一方で繊維産業の賃金は依然として全産業平均および製造業平均を25%以上下回っている。 また、日本人の購買力低下も理由として挙げられる。人口減少と高齢化により衣料品の購入枚数自体が減り、さらにユニクロをはじめとする耐久性の高い衣料品の普及によって買い替え頻度が落ちている。また、百貨店の衰退や中価格帯ブランドの消失に象徴されるように、国内ファッションの“中間市場”が徐々に縮小し、消費者の選択肢も変化している。
企業ランキングの変化
国内市場が市場が縮まる中で、ユニクロやアシックス売り上げや市場価格に成長を見せた。この2つの会社に共通する点は、高機能・高品質の製品の販売と海外展開を拡大している点だ。
ユニクロの2024年の総合決済によると、グループ収益は初めて3兆円を突破し、なんと利益の55%が海外事業によるものだった。
このユニクロのグローバル展開の成功の裏側には、旗艦店のオープンによってその文化やライフスタイルに溶け込む戦略が隠れている。例えば中国では武漢中心部に2200平方メートルの旗艦店をオープンし、世界最大の学生人口を誇る武漢市の大学と連携し学生ファッションショーなどを開催した。また、来年春にはパリの凱旋門近くに新店舗の開店を予定し、現地の文化や歴史と融合することで地域に根ざしたブランド体験を構築しようとしている。
アシックスの日本市場は全体の約14.7%にとどまり、残る約86.3%は海外ビジネスが占めている。日本ではデザイン性や日常使い向けのラインが特に支持を集めている一方で、他国ではマラソン用に機能性を重視したランニングシューズが圧倒的な売上げを誇っているこの背景には、ブランドによるコミュニティ構築やライフスタイル発信の取り組みに加え、世界的なランニングブームが需要を押し上げていることが影響している。アシックスは商品を通じ、運動で得られる満足度を提唱するため、ランニングイベントを中国やフランスなど世界各国で実施している。またアシックスは、イベント開催やコミュニティ形成だけでなく、Metaspeed等の機能性シューズの技術革新)、直販(DTC)戦略の強化、ファッション領域との協業を通じてブランド価値を高めてきた。こうした複数の要因が、世界市場での存在感を押し上げている。
輸出入の変化
90年代から続く中国や東南アジア諸国の安価な労働力で大量生産のできる低価格製品の登場によって、日本国内の98.2%の衣料品が輸入品となっている。この低価格商品の輸入に比例して、2022年の国内のブラウス、セーター、ワンピースの平均小売価格は30年前の半分にまで下がった。安価な労働力で大量生産のできる
国際貿易データベースに国連Comradeよると、2024年のファッション・テキスタイル分野での輸入品額のランキングは、1位ニット衣料品、2位衣料品、3位靴類、4位古着含むそのほかの5位は革製品または旅行用品となった。
一方で市場調査会社Imarcによると、日本の繊維産業は、高品質な日本製繊維製品への世界的な需要の高まりを受け、輸出機会の拡大を進めているという。2024年の輸出額ランキングでは、1位人工繊維、2位人工短繊維、3位不織布と主に原料や素材が占めている。近年の日本の高品質な繊維製品は海外のハイブランドや一部のグローバルSPAの大量購入によるものだ。
素材輸出の割合は依然として高いものの、2010年代と比較すると衣料品輸出も増加している。2023年の衣料品輸出額は1072億円と、2010年の346億円の約3倍となり、日本製衣料への需要が確実に高まっている。アジア、ヨーロッパ、アメリカを中心に輸出が拡大し、生地の主要輸出先にはUAEやサウジアラビアといった中東諸国も含まれている。
現在の日本のファッション市場は安価な衣料品の流入と、高品質素材の輸出という2面性を持つ。このギャップは、日本の生産構造にも起因している。国内縫製業は長年の人材不足や低賃金に直面し、大量生産では海外に対抗できなくなった。
一方で、高い技術力を要する素材・生地分野では国際競争力を維持している。今後日本のファッション市場をさらに大きくしていくには、価格競争よりも品質の高さや環境を配慮した衣料品や素材の生産が鍵になってくるだろう。高機能繊維と高品質縫製を組み合わせた日本独自のブランド価値を世界市場に提示できれば、日本の衣料品輸出は数量ではなく「価値」で勝負できる段階へと進むだろう。
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