今、「オートクチュール」に注目すべき理由。
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オートクチュールは“夢の世界”とよく言われる。都会の小さなアパート一軒分の値がつく服を何の気なしに買う“超”富裕層のために年に二回披露されるゴージャスな新作のパーティドレス。それが「オートクチュール」だ。
その認識は間違ってはいない。手仕事でドレス1着を仕立てるのに2000時間はくだらないという気の遠くなる作業に高額な材料費。もちろんショーにも費用がかさむ。オートクチュールはまさに“薄利少売”のビジネスといっても過言ではない。
それ故にオートクチュールはファッションウィークでもプレタポルテに比べて圧倒的にコレクション数が少ない。フランスのオートクチュールの連盟でも現地正会員数はシャネル(CHANEL)、メゾン ディオール(MAISON DIOR)、ジバンシィ(GIVENCHY)など15ブランドのみ。これに加えジョルジオ・アルマーニ(GIORGIO ARMANI)、フェンディ(FENDI)、ヴァレンチノ(VALENTINO)など7ブランドがフランス国外の通信会員となっているほか、ロナルド・ファン・デル・ケンプ(RVDK RONALD VAN DER KEMP)、ラルフ & ルッソ(RALPH & RUSSO)、スーアン(XUAN)をはじめとする15ブランドがゲスト会員として加盟している。それでもなお76のランウェイと29のプレゼンテーションで賑わうパリのプレタポルテファッションウィークに比べれば、オートクチュールファッションウィークは存在感が希薄である。
存在感こそ薄いものの、オートクチュールコレクションはファッション業界の帆先を示す羅針盤でもある。なぜなら、オートクチュールはデザイナーが予算や時間、採算性にとらわれることなくその職人的技術と知識を披露できる究極のクリエイティブ・スペースであるからだ。くしくも高級ファッションの市場はその高価な代償を払うことをいとわない顧客で溢れている。オートクチュールの購入者は世界に4000人いると言われ、またオートクチュールファッションウィークに訪れるバイヤーも200人に上る。ディオールのウェディングドレスで例えると1着売って最大1億円が稼げるという計算だ(ロイター)。
このレベルの富裕層ともなれば社交の場への誘いがひっきりなしで、年に15〜20個の結婚式をこなす上に毎月パーティーやイベントなどの予定が後を絶たないということがざらにある。セレブな彼らにとって同じ服を2回着るなどはありえない。まして他のゲストと服がかぶるなど論外も甚だしい。つまりそんな超富裕層にこそオートクチュールはその価値や実用性を発揮できるのだ。
ファッションのエコシステム(生態系)としてのオートクチュール
フランス・オートクチュールおよびファッション連盟(Fédération de la Haute Couture et de la Mode、略称:FHCM)は、「オートクチュールはファッションのエコシステム(生態系)の中心的存在」だとしている。オートクチュールは時代を超えて服飾における伝統的な知見と革新的な生産技術にもとづく現代のファッションとをつなぐ扉の役割を果たしているためだ。
オートクチュールはアイデアや技術を実験できる場所
オートクチュールを担うのはファッション界で高い実績のあるブランドやブティックだ。彼らが期待しているのは新しいアイデアや技術を試し、自由に創造性を働かせることができる場だ。その恩恵は一部の裕福な消費者のみではなく、制約のないファッションを求める人々にも共有できるものである。
そして一部の裕福な消費者にだけではあるが、オートクチュールは「自分のサイズにパーフェクトに合う服」「世界に二つとない服」を提供してくれる。ファッションにおいてこれ以上に素晴らしいことはあるだろうか。
写真: Ronald van der Kemp AW19 couture by Marije Aerden