至高の薔薇モチーフ〜アクセサリートレンド最新事情
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花の女王の称号を持つ、美しい薔薇の花。最新ウィメンズファッションウィークではその名にふさわしく、薔薇モチーフがランウェイで強い存在感を放った。デザイナーたちはそれぞれ、靴やアクセサリー、ジュエリーといったアイテムで薔薇を模った挑発的で大胆、そしてシュールレリズムをも感じさせるデザインを発表。ファッションの常識を覆し、来春や来秋に向けて意外かつ心奪われる新しい薔薇の使い方を提案した。
そもそも薔薇の蕾や棘は植物としてだけではなく、見るものを虜にするような美しさや謎めいた雰囲気や影を象徴し、私たちの文化に深く根づいている。激変する昨今の国際情勢のなかで、厳しい環境でもひたむきに根を生やし成長しつづける花や草木に人々は感動を覚える。一方、近年の世界各地における女性や少女の権利擁護運動は性差別の深刻さを浮き彫りにし、「Bodily Autonomy(自分の身体について自分で選択できるという自己決定権)を求めてヒジャブ抗議(頭髪を覆うスカーフのヒジャブを適切に着けていなかったとしてイランの道徳警察に拘束された女性が死亡したことを受けて始まった抗議運動)などのグローバルキャンペーンにまで発展。女性や女性らしさに関連した問題についての重要な議論に再び社会の注目が注がれることとなった。
こうした時代背景を綿密に捉えたジェンダーインクルーシブな感性を反映したのが、2024年春夏NYファッションウィークに登場した、「パロモ スペイン(PALOMO SPAIN)」を手がけるアレハンドロ・ゴメス・パロモ(Alejandro Gomez Palomo)。スペインのブランド、「ビンバイローラ(BIMBA Y LOLA)」とのコラボレーションで作ったという新作では、大きな薔薇の花弁をイメージしたレザーのバッグやメタルで一輪の花を表現した華麗で極めてシュールなイヤリングやチョーカーなど、刺激的なライトモチーフが多数お目見えした。さらに同FWでは、ガーリーなスタイルで知られる「サンディー リアング(SANDY LIANG)」は、シルクで作った薔薇の花をあしらったサテンのベルトをドレスにつけてアクセントに。名前にも薔薇が入っている「ロージー アスリン(ROSIE ASSOULIN)」は、メリージェーンシューズの表面に薔薇の花びらを散りばめたほか、蕾のモチーフをピンでシャツに留めて、服に彩りを添え、「ブロンクスアンドバンコ(BRONX AND BANCO)」は真紅の薔薇の花束をイヤーカフで再現し、その芸術センスを証明した。
打って変わってロンドンのFWでは、「デヴィッド コーマ(DAVID KOMA)」がラインストーン仕立ての薔薇の花びらや葉をあしらったネックレスやカフス、茎から伸びる一輪の薔薇の花を大型サイズでプリントしたニーハイブーツで、彼独自の斬新なスタイルとボタニカルな要素との融合を体現した。彼はさらに、メタリックナクラッチバッグのハンドルも薔薇の棘を表現したデザインを使用している。
パリFWの終盤、「バルマン(BALMAIN)」は、鮮やかな赤色の生地を網目のように組み合わせたフレンチヒールサンダルで薔薇を表現。ショーではこれ以外にも、アセテートやメタルで作られた薔薇の花や棘を縁にあしらったメガネが登場し、まさに薔薇色の世界を映し出した。レザー製のサッチェルバッグから溢れんばかりに顔を出す薔薇は、まるで本物のように瑞々しい。一方、ファッションショーでは最後にステージに向かって薔薇の花を投げてデザイナーを称える慣習があるが、「アレキサンダー・マックイーン(ALEXANDER McQUEEN)」の退社を発表したサラ・バートン(Sarah Burton)は、同ブランドでの最後のショーに相応しく、薔薇をテーマに選び、イヤリングや指輪を大きな蕾で飾った。なお、親会社のケリング(KERING)では、バートンの後任にショーン・マクギアー(Sean McGirr)が任命されたことを受け、同社傘下ブランドのデザイントップから女性がいなくなるとしてSNSで議論を呼んだ。こうした背景もあってか、薔薇は別れの象徴とも取れる。
女性の文化の焦点が、この世界に女性として生きることの意義に変わろうとしている現在で、(SNSでも飽和状態にあるであろう)レースやパール、リボンをふんだんに使った可愛らしいパステルカラーの媚びたスタイルの進化は転換期を迎えている。薔薇は活力に満ちた感情的でセンシュアルな深紅とよく協和するのは間違いない。不確実性に囲まれて生きる消費者が、秋や冬に向けて心惹きつけられる楽観的な感性を求めようするとき、赤は欲望を満たし、畏怖の念を呼び覚まし、ますます増え続ける実験的なデザインと私たちとの関わりを強調してくれる。2024〜25年秋冬向けウィメンズランウェイシーズンの開幕が迫る中、強い色味と計り知れない情熱を持つ象徴的な花である薔薇が、これまで以上に大胆に咲き誇ることだろう。