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和洋折衷:ソウシオオツキが表す、〈伝統と異文化〉の狭間の日本

1月のピッティ・ウオモ参加予定 日本ブランドSoshiotsukiの、ブランドの軌跡をたどる
ファッション
Japanese fashion designer Soshiotsuki attends the 2025 LVMH Prize award ceremony at the Louis Vuitton Foundation Credits: Thomas SAMSON / AFP.
By Sena Terui

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今年のLVMHプライズを制覇した日本ブランドSoshiotsukiは、2026年1月、イタリアの国際的展示会「ピッティ・ウオモ」にて更なる存在感を世界に示す。

着物、侘び寂び、禅 ― 古典的な日本文化に注目が集まる中、デザイナー大月壮士の着眼点は、ありきたりな懐古主義を一蹴する。

彼のデザインは、旧日本陸軍の軍服や喪服、さらにはバブル時代のサラリーマンスタイルを、スーツという名の現代の “洋”服へと昇華する。言わば“和風vs洋風”ような二項対立的な視点とは異なる、異文化を織り交ぜた “和洋折衷”の象徴といえるだろう。現代の多様な価値観の入り混じった交差点において、改めて「日本文化とはなにか」を衣服を通して問いかけているのだ。

このような問いは決して今に始まったことではない。明治維新から第二次世界大戦での敗戦、昨今のグローバリズムまで、歴史的に日本は欧米化と自国の伝統の狭間におけるアイデンティクライシスに幾度も直面してきた。その葛藤は現代の日本人の価値観や美意識にもなお影響を及ぼしている。

おそらく大月もそのうちの一人であろう。「海外へのコンプレックスがある」ファッションオンラインメディア、Fashionsnapでの対談でそう語った大月は、そのコンプレックスへの抗いを自身のコレクションに落とし込んだ。

多文化社会を表象する大月の日本史観とブランドの歴史を辿ると共に、今後期待されるブランドの展開を見ていこう。

“日本人の精神性とテーラーのテクニックによって作るダンディズムの提案”, Soshiotsuki

高い技術力と物語性

「日本人の精神性とテーラーのテクニックによって作るダンディズムの提案」をブランドのコア哲学として掲げるSoshiotsukiは、日本の伝統や宗教性を作品にちりばめている。同ブランドのオリジナリティは、誰もが見たことがあってもつい当たり前と思いがちな、ニッチな日本の慣習を拾い上げている点にある。このコンセプトが表すように、技術を磨くための教育と、概念を構築するための教育という、二つの異なる学習環境での経験が、現在のブランドを形作っている。

大月は2011年まで文化服装学院のアパレルデザイン科メンズデザインコースに在籍した。同学校ではテーラリングの基礎からパターンメイキングまで、衣服制作における基礎を学ぶ。この時期に培われた高い技術力が、後に彼のブランドの核となるテーラーのテクニックの土台となっている。そして文化服装学院3年生になったころ、大月は「ここのがっこう」というファッションのプライベートスクールに通い始める。ここのがっこうで、哲学や物語、アイデンティの表象としての服作りを学ぶなかで、日本の古典芸能や宗教的モチーフをファッションに取り入れはじめた。

このような技術的、概念的な特訓の後、2015年、自身のレーベル「Soshiotsuki」を正式にローンチした。ブランド設立から間もなく、2016年「LVMHプライズ 2016」のショートリストにノミネートされた。

Soshiotsuki Fall Winter 2024, Ready to Wear Credits: ©Launchmetrics/spotlight

以前の大月のコレクションは、日本の葬式に見られる数珠などの仏教的な要素、あるいは皇軍の軍服に見られる規律正しい構造を現代的なスーツスタイルに落とし込んだものが多かった。

しかし2025年春夏コレクション以降、同ブランドは80年代のサラリーマンをテーマに服作りを進め、同年のLVMHプライズを獲得した。既存のスタイルの模倣だと揶揄されることもあるこのコレクションだが、作品つくりの背景にはデザイナーの視点の独自性が隠れている。idの取材で、大月はバブル時代のトレンドをシニカルに語っている。80年代の日本ではイタリア製のアルマーニのスーツがステータスの象徴とされ、同時にオリジナルのフォルムを履き違えたコピーが量産された。大月はこの異文化を一辺倒に賛美する風潮に違和感を覚え、現在のコレクションの着想を得たという。つまり、Soshiotsukiは、単なる日本の伝統文化ではなく、異文化受容の過程で露わになる日本特有のコンプレックスや欲望を、現代の服として可視化しているのだ。

コレクションは、80年代のイタリア製スーツ生地のサンプルを分析し、それを日本の岩手県の織物技術で再現することで作られた。さらにヴィンテージのデッドストックの着物シルクでシャツを、日本の工場で余った毛糸でスーツを作り上げた。ただし、この制作過程は、単に日本の職人技やサステイナビリティを讃えているわけではない。かつての異文化崇拝の象徴であったイタリア製の服を、あえてメイドインジャパンで作り直している点は、その欲望の構造そのものを問い直す行為として、より強い風刺的なメッセージを際立たせているのだ。

Soshiotsuki Spring Summer 2026 Ready to Wear Credits: ©Launchmetrics/spotlight

商品ラインナップ

Soshiotsukiの代表的なアイテムには、主にシャツやスーツジャケット、パンツなどのテーラード商品がある。その他にもブレスレットやネックレスといったアクセサリー商品も取り扱っている。

ワイシャツはおよそ3万7千円から6万円台、パンツは3万9千円から6万8千円、ジャケットはジャケットやコートは8万5千円から16万5千円の価格帯となっており、日本の中価格帯ブランドよりもやや高い価格設定となっている。

これらの商品は、公式オンラインストア、SsenseなどのE-commerceショップで購入可能。また後述するTomorrowとのパートナーシップによってグローバル展開を拡大する予定だ。

市場展開・国際戦略

2025年のLVMH Prize グランプリ受賞は、SOSHIOTSUKI にとって大きな転換点となり、その後さらなる国際的なパートナーシップが発表された。ファッション開発プラットフォーム Tomorrow は、LVMH Prize の受賞を受けて 同ブランドとグローバルパートナーシップ契約を締結し、卸売・国際展開を支援する体制を構築した。また、Zaraとのコラボレーションは、低価格でより多くの消費者にデザイン性を広めるきっかけとなった また「スーツ」という普遍的なアイテムを軸にしている点は、Soshiotsukiがグローバルなオーディエンスの共感を得やすい理由の一つとなっている。スーツは文化や市場を超えて、国際的なバイヤーや消費者にとって参入障壁が低く、グローバル展開の出発点として非常に有効なプロダクトである。 同時に、同ブランドは日本製の素材と精緻なテーラリングによって差別化を図り、明確な「原産地価値」とクラフツマンシップを付加している。この組み合わせにより、ベーシックなメンズウェアの枠を超え、品質・価格・ポジショニングの面で強い説得力を持つプロダクトを提供している。 さらに、1980年代の日本というテーマは、ノスタルジア・マーケティングとしても機能している。年齢層の高い顧客にとっては文化的記憶や親しみを喚起し、若い世代にとっては再発見された憧れの美学として映る。この二重の訴求力によって、複数世代を同時に惹きつけることが可能となっている。

普遍的に理解されるプロダクトカテゴリーに、日本のクラフツマンシップと感情に訴えるストーリーテリングを組み合わせることで、Soshiotsukiは商業的に合理性の高いブランド戦略を提示している。

出展イベント

LVMH プライズをきっかけに、Soshiotsuki は日本国内のみならず、国際的な舞台での露出を強化している。特に2026年1月に開催される「ピッティウオモ」ではゲストデザイナーに選出され、フィレンツェでの特別プレゼンテーションが予定されている。現在のところラインアップはまだ公表されていないが、2026年の東京ファッションウィークで新コレクションが発表される可能性は十分にあると見られている。

Pitti Uomo
Rakuten Fashion Week Tokyo
Soshiotsuki
TOKYO FASHION WEEK