ファッションとプロテイン繊維の出会い：「バイオテクノロジーは大きな力となる」

Spiberは、発酵技術を利用してプロテイン素材を生産する日本のバイオベンチャー企業です。その生産方法は、2004年にバイオインフォマティクスの研究者である関山和秀氏と菅原潤一氏が発酵による蜘蛛の糸を模倣した繊維の生産方法を研究したことから始まりました。3年後、彼らはその研究を繊維産業が直面する環境問題の解決に役立てるため、アパレル産業向けに特別に設計されたプロテイン素材を開発しました。

10年前、Spiberは画期的な技術を開発しました。独自開発のDNAを微生物に組み込み、特定のプロテインを生成することで、バイオベースで生分解性をもつBrewed Proteinファイバーを製造。サトウキビ由来の糖をプロテイン生産の主原料としています。Brewed Proteinファイバーは現在、ISO規格で定義されている人工タンパク質繊維の中で、精密発酵プロセスを経て商業規模で展開されている唯一の繊維です。

シルクのような光沢と繊細さをもつ短繊維、トップス/スライバー、紡績糸、そして特定の生地構成においては消臭・抗菌性を備えたが生地が提供されています。Brewed Proteinファイバーは、製品寿命の終わりには栄養素に分解され、新しいBrewed Protein素材の原料として再利用できます（実験室規模で実証済み）。

Spiberは2019年に、日本のアウトドアスポーツブランドGoldwinと共同で、Brewed Proteinファイバーを使用した初の製品「Moon Parka」を発売し、さらなる躍進を遂げました。その後も、アウトドアウェアブランドのThe North Face、カリフォルニア発のスペシャリティストアのRon Herman、高級アウトドアウェアブランドWoolrich、イタリアのファッションブランドPangaia、日本の高級ファッションブランドsacaiなど、多くのコラボレーションが実現しています。

同年、日本のファッションデザイナー、中里唯馬氏が手がけるクチュールブランドYUIMA NAKAZATOの作品にSpiberの素材を採用し、「バイオスモッキング（Biosmocking）」と呼ばれる独自のテキスタイル・モデリング技術を用いて、Brewed Proteinファイバーは初めてオートクチュール界に紹介されました。そして2025年7月、オランダのオートクチュールデザイナー、イリス・ヴァン・ヘルペンが、パリ・ファッションウィーク2025年秋冬コレクションでBrewed Proteinファイバーを用いたブライダルルックを発表しました。FashionUnitedは、イリス・ヴァン・ヘルペンとのコラボレーションを率いたSpiberのリージョナル・マーケティング・マネージャーである中島綾菜氏に、課題、学び、そしてSpiber独自の道のりについて話を聞きました。

素材の革新でオートクチュールの世界に参入するのは刺激的だったに違いありません。イリス・ヴァン・ヘルペンとのコラボレーションについて詳しく教えていただけますか？どのように実現し、どのように進展したのでしょうか？

イリス・ヴァン・ヘルペンとのコラボレーションは必然的なものでした。イリスは、私たちと同様に自然から深いインスピレーションを得ており、アートを通してファッションとサステナビリティの共存を強く信じている、卓越したクチュリエです。私たちは数年前から互いを認識していましたが、共通の知人を通してついにコラボレーションが実現しました。このコラボレーションは、創造性、テクノロジー、そしてサステナビリティは別々の追求ではなく、統一されたビジョンの深く相互に関連した要素であるという共通の信念に基づいて実現されました。イリスのような先見の明のあるデザイナーやアーティストとのコラボレーションは、SpiberのBrewed Proteinファイバーの創造性を最大限に引き出し、持続可能なファッションの未来への新たな可能性を鼓舞する上で重要な役割を果たすため、私たちは深く感謝しています。

実はこれがオートクチュールとの初めての出会いではなく、もっと前に実現していたのですね。

はい、私たちは2019年からYUIMA NAKAZATOとコラボレーションしており、クチュールの世界は私たちにとって全く新しいものではありません。私たちの素材開発の初期段階から、中里唯馬氏は他の人が制約と見なす要素に可能性を見出していました。彼は収縮率の高い繊維に着目し、かつて私たちが欠点と見なしていたものを創造的な機会へと転換させ、ユニークな一点もののクチュール作品へと変貌させる「バイオスモッキング」技術の開発につながりました。これは、YUIMA NAKAZATOのために特別に設計されたBrewed Protein素材の超収縮または形状変化特性を特殊なデジタル加工を施すことによって、立体的なテクスチャを表現し、作品に新たな深みを与えるテキスタイル・モデリング技術です。

素材は単なる受動的な存在ではなく、“表現する力”をもったものだと考えています。素材は物語を語り、感情を喚起し、私たちと自然との関係性を再定義する可能性を秘めています。生命の複雑さがもつ本質的な美をかたちにする、イリス・ヴァン・ヘルペンのデザインと出会い、私たちの哲学が深く共鳴したことは、とても特別な経験でした。

既製服コレクションにブリュード・プロテイン繊維を取り入れているブランドやメーカーからの反響はいかがですか？

これまでにいただいたフィードバックは非常に励みになるものでした。短繊維、糸、生地のいずれの形態であっても、Brewed Protein素材は、柔らかなな肌触りがアパレル用途においては快適な質感、感触のある素材として高く評価されています。またもう一つの強みは、その汎用性の高さです。繊維の長さ、紡績の方法、織物の構造によって、Brewed Proteinファイバーは様々な特性をもった仕上がりや質感を生み出すことができます。

例えば、梳毛紡績（ウーステッド紡績）工程では、磨き上げられた光沢のある表面美と滑らかな手触りを実現することができます。とはいえ、生地の最終的な質感や風合いは加工方法によって大きく異なるため、この素材はデザイナーやメーカーに創造性のための新しいキャンバスを提供します。

多くのパートナー企業が、その柔らかな風合いを高く評価しています。私たちはさらに、Brewed Proteinファイバーを他の繊維と混紡した際の機能特性を探るべく、パートナー企業と積極的に協力しています。これは継続的な発見の旅であり、パートナーとともに素材を進化させ続けられることに、大きな喜びと期待を抱いています。

Brewed Proteinファイバーを開発して以来、最大の学びは何でしたか？

新しい素材の開発には、特に実験室規模のプロトタイプから信頼性が高く費用対効果の高い商業生産に移行する際には、かなりの時間と資本が必要であることを学びました。このスケールアップは、技術革新だけでなく、オペレーションとサプライチェーンの抜本的な見直しも必要とします。Spiberでは、プロテインポリマーの生産プロセスを最初から最後まで自社で管理し、試行と改良を重ねながら、この課題に継続的に取り組んできました。

例えば、梳毛紡績（ウーステッド紡績）工程では、磨き上げられた光沢のある表面美と滑らかな手触りを実現することができます。とはいえ、生地の最終的な質感や風合いは加工方法によって大きく異なるため、この素材はデザイナーやメーカーに創造性のための新しいキャンバスを提供します。

多くのパートナー企業が、その柔らかな風合いを高く評価しています。私たちはさらに、Brewed Proteinファイバーを他の繊維と混紡した際の機能特性を探るべく、パートナー企業と積極的に協力しています。これは継続的な発見の旅であり、パートナーとともに素材を進化させ続けられることに、大きな喜びと期待を抱いています。

Brewed Proteinファイバーを開発して以来、最大の学びは何でしたか？

新しい素材の開発には、特に実験室規模のプロトタイプから信頼性が高く費用対効果の高い商業生産に移行する際には、かなりの時間と資本が必要であることを学びました。このスケールアップは、技術革新だけでなく、オペレーションとサプライチェーンの抜本的な見直しも必要とします。Spiberでは、プロテインポリマーの生産プロセスを最初から最後まで自社で管理し、試行と改良を重ねながら、この課題に継続的に取り組んできました。

将来を見据え、私たちは、非可食性原料の活用など、持続可能な生産方法を開拓し、素材革新の限界を押し広げ、製造業のより責任ある未来を形作ることに尽力していきます。

これまでにファッション分野ではイリス・ヴァン・ヘルペン、テキスタイル分野ではManifattura SesiaやAchille Pinto、そして日本のメーカーとのコラボレーションがありましたが、今後どのようなコラボレーションが予定されていますか？

これまでに繊維メーカーや紡績工場を含む80社以上が当社のBrewed Proteinファイバーを使用しており、45ブランドが190以上の製品を発売しています。

今後、米国、ヨーロッパ、中国、インド、日本、その他の世界各地で、主要ブランドだけでなく、Brewed Proteinファイバーの幅広い採用を促進するための製品コレクションを開発している工場やメーカーとのグローバルなコラボレーションを拡大していきます。

Spiberは今後どのような展示会に出展予定ですか？

ヨーロッパでは、9月16日から18日までパリで開催されるPremiere Vision (プルミエール・ヴィジョン)、9月16日と17日にロンドンで開催されるBiofabricate (バイオファブリケイト)に出展予定です。イノベーターや業界リーダーの皆様との交流を楽しみにしています。

Spiberの今後の展望は？

ISO 2076認証を取得した人工的に製造されたタンパク質繊維のパイオニアとして、当社のBrewed Proteinファイバーは商業化に成功した唯一のプロテイン繊維であり、Spiberはファッションをはじめとするバイオ素材のグローバルリーダーとしての地位を確立しています。私たちは、バイオテクノロジーがより良い未来を築くための強力な力となり、世界の産業を変革し、環境負荷を軽減し、持続可能で包摂的な未来を創造できるという信念に支えられています。

そして、常に素材の新しい多様な用途を模索し、循環型経済を支援し、持続可能であるだけでなく再生可能なシステムに貢献することを目指しています。プロテインベースの素材がファッション、食品などの分野における課題への対応にますます重要になるにつれて、倫理的で効率的な生産方法の必要性は飛躍的に高まると考えています。私たちは、人と地球のより良い未来のために、素材の生産と活用のあり方を変革するという使命を共に掲げる先見的なパートナーと、これからも歩みを共にしていきます

インタビューは書面形式で行われました。