「上半身だけオシャレはNG」〜デザイナー達が警鐘を鳴らす“テレワークの洋服事情”
loading...
実店舗営業を中心とする世界最大の小売業「ウォルマート(Walmart)」では新型コロナによるロックダウン下の米国でトップスの売上が急増する反面、ボトムスに関しては伸び悩んでいる。まるで一日中座りっぱなしのテレワークという新しい働き方が浸透し、slackやzoomミーティングの間でスクリーン疲労を積もらせイライラしながらおやつ片手に仕事する消費者像を象徴するかのようなこの傾向。ビデオ会議技術の進化が注目される中で、1980年代から続いてきたビジネスウェアに対するニーズは廃れてしまったといっても過言ではない 。
感染拡大を食い止めるために始めたソーシャルディスタンスはついでに仕事着のドレスコードも半減させ、ストライプのボタンダウンシャツの人気にも歯止めをかけた。代わりに急浮上したのはジム・ショーツやヨガパンツ、パジャマ。しかもすべてゴムウエスト仕様のものだ。 “社会生活の維持に必要とされる”ものではないズボンやスカートは当面の間一時解雇状態となり、タンスの奥のクリスマスの靴下を引っ張り出して昨冬の思い出に浸るも、平日からボロボロの服を着てフロア掃除のモップのようにあてもなく家の床に寝転んでみたりするのも思いのまま。中には回転椅子に座り素っ裸で股間に春の風を感じながらビデオ会議で上司と話をする革命的な在宅ワーカーもいてもおかしくない。しかしあくまでこれも仕事中の服装である。ただ、いつもとはちょっと違うだけだ。
だが、専門家は外出自粛とうまく付き合っていくためにはきちんとした生活リズムを維持することが大切だと指摘する。デザイナー、マーク・ジェイコブス(Marc Jacobs)は昨今の「上半身ファッション」に対抗するかのように、最新のプラダ の服に着替え、キラキラ光るネイルやアイシャドウをまとい、自身のシグネチャーであるブーツを履いて家の中をパレードして回る画像をインスタグラムで公開している。その姿は石畳が美しいマンハッタン・ソーホー地区のブティックで過ごす彼の普段の様子と何ら変わることはない。
テレワークでもオシャレなファッションデザイナーたち
同じく米国のデザイナーのアイザック・ミズラヒ(Isaac Mizrahi)も軽視されるファッションの復権を求めて主張する1人だ。彼はインスタグラムで「タイトな3ピーススーツか、それともコルセットとカフスボタン30個付きの19世紀のドレス とか。(テレワークファッションには)もっと構造が必要だ!” とコメントを投稿している。
テレワーク中のファッションに対するニーズを受け、『エル(Elle)』『ヴォーグ(Vogue)』『GQ』の三大ファッション&ライフスタイル誌の編集長が在宅でもファッションをあきらめないためのアイデアを豊富に紹介するインスタグラム・アカウント「@wfhfits (Working From Home Outfits; テレワークのスタイル) 」を立ち上げた。木製デスクの上にそびえ立つ敏腕ファッションエディター、アンナ・デッロ・ルッソ(Anna Della Russo)のマトンスリーブの力は疑う余地もない。それでもなお、芸術的な服を自然に欲っしてきた私達の意識は、いつしかパリの街角や映画「シャイニング」の廊下など、Zoom会議のためのバックグラウンド画像探しに向けられている。なぜなら、互いに相手のリビングのインテリアの趣味を疑い始めた上司と部下の関係において、スーツを着た上司から指示を受けるというのは方向感覚を失わせるからだ。
しかしながら、無意識のうちに生え際の白髪が気になってしまうのは自分だけではないということを知って欲しい。白髪染めキットが届くまでの間、机の影の頭部に起きたこの予測不能な事態を何とか洒落たスカーフやベレー帽で隠せないかと悩んでいる人がいる。そして世界中で女性達が数日間ノーブラで過ごすとブラがキツくなるという事実に気付かされている。こうした共同体験には人間らしさがあり、今回のような不安な時代には付き物であるが、その影響はコロナ後に職場復帰した時の私達の姿にどんな形で現れるのだろうか?とりあえずクリスマスの靴下は残りそうだ。
<ジャッキー・マロン(Jackie Mallon)
ファッションエディター、教育者。グローバル・ファッションの世界を描いた小説『Silk for the Feed Dogs』著者。
画像提供:Wikimedia Commons by CSIRO (http://www.scienceimage.csiro.au/image/2102)