型破りなドレスに、多彩なデビュー作。Metガラ2024のハイライト〜Part1
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先週末、ニューヨーク・メトロポリタン美術館(通称MET)前にテントが建てられた。そこに書かれていたのは、「Sleeping Beauties: Reawakening Fashion(眠れる森の美しき者たち:再び目覚めるファッション)」。MET付属の服飾研究所(コスチューム・インスティチュート)が年に一度開催する展覧会の今年のタイトルだ。
今年の展覧会は、自然を用いてファッションの儚さを表現しながら再生と刷新という概念を探求することをコンセプトとしているが、実はそのコンセプトはオープニングに開催されるMetガラのテーマ『The Garden of Time』(時の庭)とも目に見えない形で絡み合っている。『The Garden of Time』とはイギリス人作家J・G・バラードによる、ある夫婦の贅沢な暮らしが逃れようのない終焉を迎えるまでを描いたディストピア小説で、今回のガラに訪れるゲストのドレスコードになっている。
ガラに先立ち、業界ではセレブリティたちが“庭”という言葉を額面通りに解釈して、会場を花柄のドレスで埋め尽くすのではという不安の声も聞かれた。だが蓋を開けてみると、多くのゲストたちが着目したのは、小説の持つダークなメッセージのほか、主人公であるアクセル伯爵と妻が彼らの家の境界線の外にある脅威から逃れるための唯一の手段である“庭の花を切って時間を削る”というコンセプトであった。
5月の第1月曜日、メトロポリタン美術館前の大階段を飾ったセレブリティたちの華麗なルックスを一挙ご紹介。
「ロエベ」な一夜
今回のガラでは、何を着ようかと迷う以上にセレブリティのスタイリストたちを悩ませる問題が浮上した。ここ数カ月、大手ブランドでクリエイティブディレクターの退任が続き、衣装提供ができなくなるという事態が発生したのである。結果、「ヴァレンティノ(VALENTINO)」や「グッチ(GUCCI)」などの代わりに、スペインの「ロエベ(LOEWE)」に落ち着くセレブリティが増え、今回のガラを飾ったトップブランドに躍り出た。ガラの共同司会者、アナ・ウィンター(Anna Wintour)も今回の衣装に「ロエベ」を選んでいる。
テイラー・ラッセル(Taylor Russell)をはじめ、「ロエベ」のグローバル・アンバサダーたちも当然のことながら「ロエベ」の支持者。Metガラ初参加となるテイラーは木製の象眼のような3Dのボディスに、シルクのドレープ・スカートを合わせたルックスでガラデビューを飾った。
「ロエベ」は、アリアナ・グランデ(Ariana Grande)にもギリシャ風のドレスを提供。こちらは木製ボディスの代わりに、マザー・オブ・パールを使用し、真珠を包み込む虹色の貝殻を思わせるガウンに仕上げた。さらにグレタ・リー(Greta Lee)やアイオウ・エディバリー(Ayo Edebiri)のドレスには立体的な花のモチーフをあしらった。
男性陣では、ジョシュ・オコナー(Josh O’Connor)と マイク・ファイスト(Mike Faist)が「ロエベ」を着用。二人が出演する今年公開の映画『Challengers(邦題:チャレンジャーズ)』では、ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)クリエイティブ・ディレクターが衣装を担当し、主役はMetガラの司会を務めたゼンデイヤが演じている。
メンズウェアは期待以上
『The Garden of Time』に登場するアクセル伯爵をイメージした舞台衣装のようなルックスが多く見られ、メンズウェアも印象深かった今回のMetガラ。特に目立ったのは「バーバリー(BURBERRY)」。F1ドライバーのルイス・ハミルトン(Lewis Hamilton)がダブルブレストのスーツの上に羽織った花柄の刺繍入りコートは、裏地にアレックス・ワートンの詩『Gardener(庭師)』の一節が印字されている。
華やかなルックスが溢れる一方で、ミニマルなアプローチを選んだゲストも。しかし、決してそれはサプライズがなかったという意味ではない。その夜、ファッション業界で最も目が離せなかった人物は、他でもない巨匠トム・フォード(Tom Ford)であろう。彼の衣装を手掛けたのは、2022年に退社した自身の冠ブランドではなく、「サンローラン(SAINT LAURENT)」の現クリエイティブディレクター、アンソニー・ヴァカレロ(Anthony Vacarello)。「サンローラン」といえば、かつてフォードは「イヴ・サンローラン(YVES SAINT LAURENT)」時代にデザイントップを務めている。レッドカーペットでヴォーグ誌の質問を受けたフォードは、ヴァカレロについて「素晴らしいデザイナーだ」と、以前の彼の「サンローラン」に対する否定的な見方とはまったく相反するようなコメントをしている。
一方、1999年公開映画『リプリー』でディッキー役をジュード・ロウ(Jude Law)は、デザイナーのドナテラ・ヴェルサーチェ(Donatella Versace)および先月ネットフリックスで配信が開始されたドラマ版に出演するアンドリュー・スコット(Andrew Scott)と腕を組んで登場。華美なデザインが定番の「ヴェルサーチェ(VERSACE)」とは一味違う彼らの装いは、「ステラ マッカートニー(STELLA MCCARTNEY)」によるキーラン・カルキン(Kieran Culkin)とエド・シーラン(Ed Sheeran)のパステルカラーのスーツと対照的なすっきりとしたデザインが印象的だった。
さらにK -POPグループ、ストレイキッズのメンバー8人は、「トミー ヒルフィガー(TOMMY HILFIGER)」のブランドカラーの赤・白・青のカラーパレットでスタイリングしたスーツで登場。SNS解析サービスを提供するカナダのダッシュハドソン社(Dash Hudson)のデータによると、ストレイキッズはソーシャルメディアのキーワード起用でゼンデイヤを抜いて1位になったほか、インスタグラム、ツイッター、YouTubeのエンゲージメントでもトップにランキングしているという。
(Part2に続く)