コロナは体験型小売を消滅させたのか?
loading...
コロナ危機でエクスペリエンシャル・リテーリング(体験型の小売)は終わりを迎えたのだろうか?休業開けの店舗では客数制限のために客がうんざりするほど行列し、店に入れば体温チェックが待っている。(アップルストアなどで実施。)床に貼られた黄色や黒のテープはソーシャルディスタンスを促し、客同士が近くの誰かがくしゃみでもしないかと不安に駆られる。店内の移動は矢印の標識に従って一方通行。店頭には消毒液とおびただしい行数で書かれたコロナ感染予防の注意書きが置かれ、マスクと手袋をした警備員が店内を巡回する。極め付きは会計カウンターで客とレジ店員との間につるされた巨大なビニールシート。買い物の喜びはこうして一つ一つこぼれ落ちていくのである。
買い物の「ニュー・ノーマル」
数週間の強制休業を経て、人々の買い物をしたいという動機(そして、ビフォアー・コロナの時代にしていたように店をぷらぷらするという行為)が消失した。ショッピング・ストリートはおろか、店そのものも我々の社会生活に欠かせないものではなくなってしまった。そんな中で顧客を引き寄せ、維持・拡大し、彼らへのエンターテイメントを提供する体験型の店舗企画を意味する「エクスペリエンシャル・リテール(experiential retail )」という言葉すら時代遅れに感じる。我々のほとんどは買い物に言ってもさっさと買って帰ろうとする。しかもそれはスーパーだけに限ったことではない。
客は店にエンターテイメントを期待しないし、店側も客に長時間ぶらついてほしくない。そのため、小売店では客がより早く品物を見つけ購入できるように商品配列などが見直されている。入店から退店まで、店内での客の移動がスピードアップされるようあらゆる配慮がなされているのだ。ブランディングのためのインスタレーションやポップアップ企画、少しでも店での滞在時間を長くするよう意図的にかけられたスピーカーを流れる心地よい音量の BGMもいまは御呼びでない。
ほんの3カ月前ならマーケティング・コンサルタントが「消費者は単に物を買うのではなく、経験に価値を重視している」などと言っていただろう。しかし新型コロナの感染が拡大しデジタル化へのシフトが進む今、実店舗はより安全・短時間・簡便な買い物ができる環境を提供しなければならなくなったのである。
買い物をより安全・短時間・簡便に
コロナの影響によりほぼ世界中の小売店で客が長々と店に滞在することを好ましく思わなくなっている。化粧品を販売する「セフォラ(Sephora )」は商品のテスターを撤去した。「ギャップ(GAP )」も試着室と来店客向けのトイレを閉鎖し、宝石店では客が試着する度に商品を消毒するようになった。ワシントン・ポスト紙によると洋服のたたみ方さえ客が触らずに商品を見られるように新しい手法が登場していると言う。
小売店はこれまで数年間、インタラクティブなディスプレイやサンプリング・テーブル、ロッククライミングのウォールやフル・サービスのカフェ&レストランなど、オンラインではできない体験を提供する様々な店内企画を模索してきた(ワシントン・ポスト紙)。しかし今となってはこうした企画のほとんどが非現実的で感染リスクが高い。実施しようとすれば究極的には買い物の楽しみが減っていき、ただでさえ脆弱な小売業界の環境がさらに悪化する。
小売店は新しいガイドラインを遵守し、客のために安全な店舗を提供しなければならない。しかし一方で、新たな小売手法を開発し、買い物に行くことが病気の検査のようにになったり、顧客との関係を拒絶する行為にならないようにする必要がある。その役にはすでにオンラインというものがあるからだ。
画像:Gap blogより