急成長するリユース衣料品再販市場:仏洋服再販サイト「ヴェスティエール・コレクティブ」マックス・ビットナーCEOに聞く
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リユース(中古)品の洋服や靴に対するネガティブなイメージはいまや一昔前の話になりつつある。米国の大手再販サイト「スレッドアップ(ThredUp)」によると、米国ではリユース衣料品市場が一次流通のアパレル・シューズ市場に比べ過去3年間で21倍のスピードで拡大しているという。また現在の米国におけるリユース衣料品は240億米ドルと推定されているが、5年後には510億米ドルになると予測されており、このまま成長が続けば2028年には米国民が所有する衣料品のうちリユース品の締める割合が13%となり、市場も新品市場の1.5倍にまで膨らむ計算だ。
高い成長性が期待されるだけに、リユース品ビジネスの企業に対しても多くの投資が集まっている。上記の「スレッドアップ」は今年8月に1億7500万米ドルの資金を獲得し、競合の「ザ・リアル・リアル(The RealReal)」も株式公開後の資金調達額が3億米ドルに達した。加えて米国大手百貨店の「ニーマン・マーカス(Neiman Marcus)」も 高級品バッグやアクセサリーなどを扱う再販サイト「ファッションファイル(Fashionphile)」の少数株を取得しているほか、グローバル・ファッションEコマースサイト「ファーフェッチ(Farfetch)」もリユース・スニーカー再販サイト「スタジアム・グッズ (Stadium Goods)」を買収している。同社はその後自社サイト内でもデザイナーズブランドのバッグを取り扱う再販サイトを立ち上げている。
再販市場への参入を図るのは「ファーフェッチ」だけではない。欧州のファッション通販大手「ザランド(Zalando)」は今年初め自社サイトで 購入した洋服などのアイテムを対象としたフリーマーケットをベルリンで期間限定開催した。同様にエイチ・アンド・エム(H&M)も傘下ブランド「アンド・アザー ストーリーズ(& Other Stories )がリユース品をネットで試験的に販売する旨発表している。
ブームを牽引しているのは若い世代の消費者たちだ。ある最近行われた調査によると、2008年の世界金融危機の影響を受けて育ち多額の学生ローンに悩まされ続ける若年層の消費者は「最も倹約な」世代だという。彼らの多くが洋服などの再販で副収入を得ており、ロンドン・カレッジ・オブ・ファッション(London College of Fashion)戦略的ファッションマーケティング修士号課程コース・リーダーのアナ・ロンチャ氏はこの傾向を「いまやクローゼットは収入源。買い物をするときにも、再販できるかどうかやその想定価値が消費者の購入判断基準になっている。洋服は彼らにとって取引可能な資産であり、“リアルリアル”や“ヴェスティエール・コレクティブ”などの再販サイトにより消費者がリユース品の取引相場を把握できるようになったことで、シーズンを超えて商品が取引されるようになった」と 説明している。
消費者の環境保全に対する意識の高まりも再販市場を後押しする。英国NGO団体「ファッションレボリューション」の調査では、欧州における消費者の3人に1人が洋服の購入時にサステナビリティを意識すると答えており、米国で行われた別の調査でも34%の消費者が洋服の環境に与える影響について懸念があると回答している。(出典:Changing Markets Foundation おおよびClean Clothes Campaign) 「年々多くの消費者がファストファッッションからより環境に配慮した選択肢へとシフトしており、洋服をできるだけ長く使い続けられるよう心がけたり、服を購入するときにも質を重視したりするようになってきている」とロンチャ氏は語る。
FashionUnitedでは、今注目のリユース品再販市場の第一線で活躍するキーパーソンを取材し、その舞台裏や今後の展望などをお伝えするインタビュー企画をお送りします。インタビューは毎週火曜に掲載予定ですのでどうぞご覧ください。
今週のインタビューに登場するのは昨年11月に共同設立者のセバスチャン・ファーブル氏の後を継ぎCEOに就任した仏ファッション再販サイト「ヴェスティエール・コレクティブ(Vestiaire Collective)」のマックス・ビッター氏。2009年にパリで立ち上がったヴェスティエール・コレクティブは世界50カ国に800万人以上の会員を持つまでに成長。サイトへは毎週約3500ブランドのリユース品4万点が出品されるという。フランス発のサイトであるが79%の取引がフランス国外で行われている。現在、オフィスをパリ、ロンドン、ニューヨーク、ミラノ、ベルリン、香港に開設している。
米コンサルのマッキンゼー・アンド・カンパニーや独のロケット・インターネット(Rocket Internet)などでシニアマネジメント経験を積んだビッター氏はかつて東南アジアの大手Eコマース企業「ラザダグループ(Lazada Group)」を立ち上げたことでも知られる。同社は設立5年目の2017年に中国Eコマース大手のアリババ(Alibaba)に31億5千万米ドルで買収されている。ヴェスティエール・コレクティブCEO就任後すぐ、ビッター氏は自身もヴェスティエールの投資家となり、今年6月には自社の国際事業展開や循環型ファッションを目指すアパレルブランド向けのデータ・ソリューション開発を推進するためフランス公的投資銀行(Bpifrance)とともに資金調達ラウンドを主導し、4千万ユーロの調達に成功した。
ヴェスティエール・コレクティブのCEOに就任してから約一年になるが、これまでを振り返った感想は?
素晴らしい経験になっていると思う。大変いいタイミングでヴェスティエールに入ることができ、大変満足している。ヴェスティエールは過去10年間リユース品ビジネスのパイオニアとして成果を上げてきた。昨今は業界としても強い追い風が来ているのを感じている。
今は消費者も業界全体としてもサステナビリティや循環型の社会づくりという視点からリユースファッションに関心がシフトしてきており、我々のビジネスにとっても大変好機だと思う。
ヴェスティエールには強い基盤があり、売り手と買い手をしっかりと取り込んでいる。私のこれまでの経験からヴェスティエールに提供できることが多くあると思っている。就任して8カ月になるがすでに多くの進展があった。あとは我々の強みをベースにすでに来ているチャンスをどう最大限に活かすかだと思う。
今年6月に自身も投資家として資金調達ラウンドに参加しているが、参加を決めた理由は?
CEOとして有言実行というか、自分の会社へのコミットメントや会社が向かう方向性に対しての信念から参加を決めた。今のヴェスティエールは大変エキサイティングで、自分は自らエキサイティングだと思える会社への投資に意欲がある。今日のヴェスティエールを見て、私が持つ将来ビジョンを鑑みたとき、自分のコミットメントを何らかの形で見せたいと思った。ただそれだけのことだ。
4千万ユーロの資金注入は国際展開、特に以前ラザダ・グループのCEOとして深く精通したアジアでの事業推進に使われるとのことだが、ヴェスティエールのアジア展開計画について詳しく教えてほしい。
自分にとっての優先事項は技術投資で、資金調達の目的も第一義は技術開発の推進だった。今回得た追加の資金で技術チームやデータチームの強化が図れるようになり、それが注入資金の主な用途だ。アジアは我々のビジネスだけでなくラグジュアリーファッション業界全体にとっても極めて重要な市場なので、当然当社としても拡大していきたいと思っている。
アジアに関してはすでに試験的に参入を果たしており、2年前に香港とシンガポールでサービスを開始した。非常に大きな反響を得ている。いまはここから先どの国で展開するかを検討している段階だ。
Vestiaire Collective’s London office.
ヴェスティエール・コレクションのロンドンオフィス
ラテンアメリカでもメキシコやブラジルに進出していると思うが、今後のラテンアメリカ展開は?
先般、当社サイトについて新たにブラジルとメキシコを含む約40市場への対応を完了した。我々のサイトは国境を超えて買い手と売り手をつなぐことの上に成り立っているコミュニティだと思っている。地理的な事情を理由に我々の製品が制限を受けることは好ましいことではなく、できるだけ沢山のユーザーにヴェスティエールのコミュニティに参加してもらえるよう、より多くの市場で当社のプレゼンスを築き、アクセスを提供したいと思っている。
参入しやすい市場はどこでも当社にとって魅力的なので、ラテンアメリカだとかどこの地域に進出するかということはあまり関係ない。それよりもいかに我々のコミュニティを広げ、循環型ファッッションに消費者が参加できるような環境をつくっていくかということを重要視している。
全体的なゴールとビジョンは世界で最も理想とされるワードロープを作ることなので、我々も人々をインスパイアし、ユーザー同士の楽しくサステナブルなつながりを支援する団結したコミュニティとしてその実現に取り組んでいきたい。
毎月のアクセス数は?主にどの国からのアクセスが多いか?
ウェブサイトおよびアプリのアクティブユーザー数は毎月おおむね3百万人と推定している。市場規模という意味ではフランスがいまだ最大のマーケットで全ユーザーの4分の1がフランスのユーザー。次いで米国と欧州のユーザーも多い。
サステナブルファッションを目指すアパレル企業向けのデータ・ソリューションを提供する計画について詳細を聞かせてほしい。
リセール品の取引市場において中心的な役割を担う一次流通のブランドは極めて重要な存在だ。
人々の購買アプローチが変化し、消費者が洋服の環境に及ぼす影響や洋服のライフサイクルを強く意識するようになってきている中、(彼らの中でも)リユース品の位置付けが重要なものになってきており、それだけにファッッションというエコシステム(生態系)全体の中でブランドと我々のようなリユース品再販ビジネスとが協業するメリットは大きい。
もし消費者がバッグ、時計、ジュエリーなどのリユース品の価値について知識を持つようになれば、良質な一次流通品に対して高価な対価を払うことへの理解も進んでいくのではないだろうか。
要するにいまのアパレルブランドにとって必要なのは「より優れた品質や長い製品寿命を持つ職人技術によって作られた商品」と「6,7回洗っただけで着られなくなってしまうファストファッション」との違いを消費者に啓発するということだと思う。
その道のりにおいてアパレルブランドを支援すること、つまり、ただサステナビリティを言葉で訴えるだけでなく、データ・ソリューションを通じて商品が一次販売後、消費者の手にわたってからどう動いていくのかという過程を目に見える形で示すことでブランドが循環型ファッションに参画できるよう促していくことが当社の目指すところだ。
サステナビリティといえば、最近「ダイレクト・シッピング(Direct Shipping)」「サーキュラー ・ブランド・パートナーシップ(Circular Brand Partnerships)」などの新サービスを始めたが、どのようなサービスなのか?
パートナシップの構想は当初「アパレルブランドにとって大事なものとは何か」「製品関連で何かブランドと一緒にできることはないか」「どうやったら、我々・ブランド・消費者の3社に有益な1+1=3のビジネスモデルを作れるか」といった問いかけが起点だった。そこで循環型ファッションの推進に興味を示していたブランド数社と話をし始めた。その頃はヴェスティエールとしてもいろいろな新しいビジネスモデルを模索していたところで、その一つが「ダイレクト・シッピング」という、売り手と買い手の両方にメリットとなるサービスであった。このサービスは長く売り手側として利用していただいている出品者(ブランド)に「Trusted seller(信頼できる売り手)」のバッチを付与し、バッチのついた出品者は商品を直接購入者に送付できるというものだ。この仕組みでは商品を購入する際に正規品保証書の有無を選べるため、買い手の側にもメリットがある。
このサービスの特徴は、サービスを通じ我々のパートナーであるブランドのサステナビリティの向上を後押しすると同時に、「ダイレクト・シッピング」という進化したビジネスモデルにブランドが参画することで我々もブランドと一緒になってファッションの循環に貢献することができるという点だ。
何故なら、ブランドは顧客に自社の製品の再販を促すことで循環型ファッションの中での自社製品の流通を確保することが可能となり、一方、消費者がブランドに再投資すればブランドロイヤルティ向上につながる。さらに売り手から買い手、買い手から売り手といったファッションにおける生態系のような関係を作っていくことで業界全体としてのサステナビリティも改善されるためだ。
現在、「サンドロ(Sandro)」「マジュ(Maje)」「 クローディー ピエルロ(Claudie Pierlot)」「バッシュ(Ba&sh)」「 アメリ・ピシャール(Amélie Pichard)「メゾン・クレオ (MaisonCléo)」の6つのブランドがパートナーになっている。まだ始まったばかりの段階だが、今後はヴェスティエールのユーザーのブランドのサイトへの誘導や当社のアプリやウェブサイトでのブランディングなどのアイデアも一緒に模索していけたらと思う。今は循環型ファッション実現に向けた道のりの第一歩を踏み出したといったところだ。
リユース品への偏見が薄れていることにより、再販市場は今後5年で510億米ドルになると予想されているが、自身の見解としてその成長要因は何だと思うか?
成長要因は複数考えられる。一つには若者世代を中心とした行動のパラダイムシフトだろう。
例えば「所有」に対する考え方だ。今の若い世代はライドシェアの「ウーバー(Uber)」や民泊サイト「エアビーアンドビー(Airbnb)」が普通に存在する世の中で育っている。 そんな彼らの中ではファッションの再販もこうした「物やサービスが常に何らかの形で人手に渡っていく」ビジネスの一つとして自然に受け止められている。すべて「ウーバーライゼイション」の一環なのだ。
ソーシャルメディアも重要な役割を果たしている。多くの人々がSNSで自分の着ているものを見せ合うため、流行の移り変わりが激しい。見せる機会が多くなった分だけ服を買う機会も増えている。当然そこにはお金の問題も関わってくる。だから、自分の買った物を売ったり、リセール品を安くかったりできる再販サイトは経済的にも理に叶っているということになる。
また、若い世代はサステナブルな消費モデルを強く志向する傾向にある。彼らは環境への危機意識が高く、積極的な行動を取らなければならないと認識しているからだ。
加えて、リユース品ビジネスが消費者嗜好に合わせて変化していることも成長要因だと思う。 リユース品に対する見方が変わり、暗い路地裏の埃まみれの店先に並んでいる古い洋服というイメージはもうなくなった。消費者のニーズは進化しており、我々のような再販サイトも現代の消費者が求めるサービスを提供すべく努めている。
ヴェスティエールの今後の展開は?
我々の将来像はEコマースの枠を超えたコミュニティの構築だ。売り手と買い手をつなぎ商品の売買にとどまらず人々をインスパイアし、互いに交流し、アイデアや意見を共有できるコミュニティをグローバルに構築し、「世界で最も理想的なワードロープを作る」というゴールに向けともに働いていく。それが今の当社の目指すところだ。
本記事(英語版原文)はハウ・ヒュース(Huw Hughes)との共同で作成されました。
画像: ヴェスティエール・コレクティブ提供、ヴェスティエール・コレクティブホームページ画像