東レ・帝人フロンティア・東洋紡が映す、日本の素材産業の今
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日本国内の約98%の衣料品が輸入品であるのに対し、ファッション業界の輸出は素材に多く依存している。東レ、帝人フロンティア、東洋紡といった繊維会社は、持続可能性を考慮した設計がますます進む高性能繊維・生地の開発を専門としている。
その背景には、高度経済成長期の天然繊維中心の市場から合成繊維への移行、そして21世紀のグローバルな価格競争があった。高度経済成長期にイギリスからポリエステル製造技術を導入した東レと帝人は、耐久性や速乾性といった利便性を持つ新たな製品を生み出した。同時期に、日本でコットンの生産を牽引していた東洋紡も、合成繊維の事業に足を踏み入れ始める。
90年代以降、海外から低価格な衣料品が流入すると、日本の縫製・量産体制は競争力を失い、完成品としての衣料品輸出は縮小していった。一方で、価格競争から距離を取った日本の素材メーカーは、高機能・高品質な合成繊維を強みに、グローバル市場で存在感を高めていく。こうした構造転換の中で、日本の素材産業を象徴する存在として成長してきたのが、東レ、帝人、そして東洋紡なのだ。
繊維業を超える 東レ
繊維メーカーの中でもグローバル展開に成功し、繊維業以外にも事業を拡大した企業が東レだ。東レはユニクロとの2006年からの長期のパートナーシップにより、ヒートテックやエアリズム、ウルトラライトダウンといったヒット製品を共に開発。これらの製品は、異なる気温においても快適に過ごすことを可能にした。
ユニクロだけでなく、エイポック エイブル イッセイ ミヤケ とのコラボレーションでは、東レの植物由来の素材、「ウルトラスエード」を利用したクリエイションを展開。従来の素材やジャージでは表現できないフォルムを作り上げ、ブランドの創作を具現化した。
東レの事業はブランドとのコラボレーションにとどまらず、教育の場にも足を踏み入れている。2018年から、イギリスのセント・マーチン美術大学の学生作品発表会「Reset SHow」向けの課題に、前述したウルトラスエードが使用されている。また、同社は2024年から2025年にかけて、ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションのビジネスコンサルタンシ―として、学生と共に市場調査プロジェクトを行った。
ライフスタイルに寄り添う 帝人フロンティア
総合化学メーカーの帝人グループのうちのひとつ、帝人フロンティアは、衣服を着る人のライフスタイルを快適にする素材を生み出した。その中心にあるのが、現代の洋服に多く使われている、ポリエステルの一種「ソロテックス(Solotex)」だ。やわらかくしわになりにくい性質をもつソロテックスを使用したスーツなどで、自転車通勤が楽になるなど、都市生活者の生活を快適にした。帝人フロンティアの素材は、ザ・ノースフェースのドーロライトパンツや、デザントのエアリートランスファーなどに使用されている。
帝人フロンティアは、環境にやさしい素材つくりにさらに取り組んでいる。2026年秋冬には、ポリウレタンを使わずに軽量・ストレッチを実現した「ソロテックス デライト」を発表し、環境への配慮と機能性の両立を推進。また、使用済み衣料品を回収・分別・再資源化する、「繊維to繊維」プロジェクトにもかかわっている。自社ブランド「Bring Material」の生地製品は、95%が繊維くず、5%が回収された服を原料に生産されている。
着心地を科学する 東洋紡
東洋紡は、高機能フィルム、環境素材、ライフサイエンスを主軸とする企業。同社のファッション業界との関わりは、ファッショナブルな表地よりも、着心地や清潔感を科学的に支える素材を開発しており、主にスポーツウェアなどに使用されている。人間が衣服を着用した際に感じる蒸れや暑さ、寒さを、環境試験室や発汗マネキン「TOM-III」を用いて数値化・科学的に解析している。冬の湿気を熱に変えるエクス(Eks)や、スポーツやユニフォームの熱を素早く逃がす「ドライアイス」、除菌、消臭機能を備えた「ブレスエアー」なども、こうした研究の延長線上にある。
東洋紡の近年の戦略は、2022年に発表された「サステナブル・ビジョン2030」に集約されている。例えば、従来は複数の異素材を組み合わせていた製品を、単一のポリエステル系素材で構成する「モノマテリアル化」技術を推進しており、これにより使用後のリサイクル効率を劇的に向上させている。さらに、ファッションの域を超えた衣服の機能化の例として、犬や猫などのペット用の「着る医療機器」の開発を行っている。