タイムリー、そしてタイムレス:新旧ミドルブランドに触れて、日本の服飾文化を学ぶ
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日本の中価格帯のブランドは、この大量生産大量消費、SNSによるステータス誇示が当たり前になった現代のファッションに一石を投じる。なぜならこのようなブランドは “上質で控えめ、そしていまどき”を体現しているからだ。
その反面、かつて日本の衣料市場の中心だったミドルブランドは、1990年代以降、安価な輸入服やファストファッションの台頭によって主役の座を譲ることになる。しかし現在、その存在意義があらためて見直されつつある。価格の安さや派手さよりも、品質や長く使える価値を重視する消費者が増えているからだ。
BeamsやUnited Arrowsといったミドルブランドとは、商品の平均単価が1.5万円から5万円ほどの、ハイブランドよりは安く、ローブランドよりは高い価格帯のアイテムを展開しているブランドのことを指す。トレンドを押さえつつ長く着れる高品質な商品を提供しており、かつラグジュアリーブランドよりも手に取りやすい価格であるという点が、このようなブランドの利点といえる。
一方で、2024年の総務省による単身世帯の家計調査では、日本人の1か月あたりの衣料品への平均出費額は4881円だった。この平均額から考えると、中価格帯の衣料品は、ある程度生活に余裕がある層や、ファッションを趣味として楽しんでいる層の消費者をターゲットにしていると思われる。
また、日本のミドルブランドは、マイケルコースやコーチといった海外ブランドから一線を画す。その理由はロゴやステータスを誇示するよりも、質感や繊細なデザインに重きを置く点にある。
つまり、細部のつくりや実用性によって価値を伝え、流行と普遍を両立することで、国内のミドルブランドは独自の存在感を放っているのだ。
これらのブランドは百貨店内でよく見られ、自社のオリジナルブランドとしてだけでなく、外部ブランドをセレクトして展開するセレクトショップとしての役割も果たしている。このように、自社製品と厳選された他社ブランドの商品を併せて販売する形態は、日本におけるミドルブランドの基盤として発展してきた。
それでは王道のミドルブランドが定着させた土台と共に、新生ブランドによる中価格帯ファッションの多様化を見ていこう。
Beams (ビームス)
株式会社ビームスは1976年、当時珍しかったアメリカ西海岸の衣料品の輸入店として生まれたセレクトショップとしてしられるが、同時に多数の自社レーベルを展開するブランド群でもある。そのレーベルの一つである「Beams」は同社の主要オリジナルブランドだ。 同ブランドは、”Basic & Exciting” をテーマに、カジュアルなスタイルにぴったりなメンズアイテムを揃えてあり、アイビーリーグの大学フーディーを想起させるような商品も複数存在する。
アメリカのライフスタイルを届けることを目的としたセレクトショップが原型なのもあり、店舗では独自の世界観を味わいながらショッピングを楽しめる。小物は3千円台から1万円以下、パンツやスウェットは1万円台、アウターでは3~6万円程の価格帯が中心となっている。
その他のレーベルには、アメリカンビンテージをテーマにしたメンズラインのBeams Plus、メンズ服のデザインを女性服に落とし込んだラインのBeams Boyなどがある。
United Arrows (ユナイテッドアローズ)
ユナイテッドアローズは、西洋のファッションを日本人視点で解釈をすることをテーマに1989年に創業された、ユナイテッドアローズ株式会社傘下のブランド。同会社は「ファッションに強い興味を持ち、ファッションを通して人生を豊かにしたい人々」、つまり大衆ではなく、きわめてファッションやトレンドに敏感な層をターゲットにしている。
同ブランドは、「“豊かさ・上質感” をキーワードに、大人に向けたドレス軸のライフスタイルを提案」することをテーマとしており、落ち着いた色合いの洗練されたデザインの商品を多く取り扱っている。価格帯はトップスで2万円前後、アウターで3~7万円以上までと幅広い。
また、本体よりもややカジュアルで遊び心のあるデザインのBeauty & Youth United Arrows、本体よりも価格帯が低く、ゆったりとリラックスしたシルエットのアイテムが特徴的なUnited Arrows green label relaxingなどといった姉妹ブランドも存在する。
Ships (シップス)
Ships株式会社傘下の「トラディショナルな要素を今日的な形で表現した“Stylish Standard”」をコンセプトに、時代を感じるクラシックなスタイルを現代風にアレンジしているメンズブランド。同社は1952年に米軍放出品の店として始まり、Beams同様さらに輸入品専門店として拡大しながら自社ブランドを展開し始めた。
フォーマルなチノパンやシャツ、テーラードジャケットなど、一貫性のあるプレッピースタイルをもつ。パンツやミドルアウターでは1.5〜3万円前後、コート類は4〜7万円前後の価格帯だ。
このように老舗のミドルブランドは、設立当時珍しかった西洋のトレンドを輸入し、日本人向けに紹介する趣旨のものが多かった。一方で昨今のミドルブランドはイメージにより一層多様性がみられる。
Conz (コンズ)
2024年に原宿に第一号店をオープンしたばかりのConzは、「ファッションを肩肘張らずに自由に」とCEOの熊沢氏がオンラインメディアFashionsnapに語ったように、フォーマルなアイテムにエッジを足して気崩すスタイルを提案するブランド。
Cozの特徴は、ユースフルでサブカルチャー的な世界観が白や黒、グレーといったベーシックな色使いや素材感と融合されている。襟付きシャツやクラシックなスタイルのジャケットと共にバギーパンツを合わせるなど、異なるジャンルの服を組み合わせることによって抜け感を利かせるのがConz流ストリートスタイルの着こなしと言えるだろう。
価格帯はおおよそシャツが1万5千~2万円台、パンツが2万円台、ジャケットが3万~4万円となっている。
Ciota (シオタ)
西洋文化の再解釈よりも、日本のミニマリズムと国産にこだわるブランドがCiotaだ。Ciotaは2019年に岡山県に本社を構える縫製工場・生地製造販売会社「株式会社シオタ」によって作られたブランドであり、原料の選別からデザイン、縫製までの工程を自社で行っている。トレンドやロゴに依存せず、シンプルで実用的かつ高級感のある服作りを追求するCIOTAは、消費の速さではなく、長く使われることを前提とした日本的な価値観を色濃く反映している。
ベージュやカーキなど、どんな服にも合う自然を感じさせる色合いに、独特のボタン配置や縫い目のデザイン、なめらかな生地の質感がベーシックな服に個性をもたらす。
スウェットが3万円代、パンツが3~5万円、シャツが2万7千円から4万円以下の価格帯となっている。